編集長日記

更新:2026年6月20日

宇宙飛行士はそこに何を見た?

 人類が宇宙に進出し始めたのは1960年代に入ってからだが、当時、何人もの宇宙飛行士が地球を飛び出し、宇宙空間から地球を眺めてはそれぞれの感想を呟いていた。

 そのなかで最も有名なセリフは、ガガーリンの「地球は青かった」であるが、いまでも強く私の印象に残っているのは、ある飛行士が言った、「人間は進化するために生きていることがわかった」という一言である。

 なるほど、言われてみれば、人類という‟生命体”はこれまでひたすら進化を続けてきた。はじめは、深い海底火山の噴火口の近くか、もしくは隕石に交じって宇宙から飛来し、自己複製能力を獲得し、そこから30億年をかけて突然変異を繰り返し、やがて知性を持つに至り、その知性によって高度な文明を築くに至った。

 こうやって見ると、たしかに生命の歴史は進化の歴史でもあるから、生命そのものは進化するために生きているのかもしれない。

 だが、知性や意志を獲得した‟人間“としてはどうなのか。たんに生命の一形態として進化し続けるだけの存在なのだろうか。

 その宇宙飛行士は、宇宙空間に飛び出して地球を振り返ったとき、一瞬でその言葉が浮かんだのだそうだが、言ってみれば、その言葉は‟上”から降りて来たのであって、その言葉をどう解釈するかは人間の側にある。

 はたして彼が、「人間は進化する」というメッセージをそのまま受け取ったかどうかはわからないが、もしかすると、そのメッセージは「人間の魂は進化する」という意味だったかもしれない。

 おそらく彼は、漆黒の空間に浮かぶ地球を見たとき、地球そのものが‟生命体”であることを感じ取っただろう。そしてその生命体に、魂の存在を感じ取ったかもしれない。だが、宇宙飛行士は科学者でもあるから、「魂」という非科学的な言葉は使いたくなかったとも考えられるのである。

 ただし、たとえそれが正しいとしても、魂が進化を続けるためには、生命体としての肉体は朽ちても魂は生き続ける、という前提がなければならない。肉体とともに魂も滅んでしまっては、進化もそこで止まってしまうからである。つまり、進化を続けるためには、魂は転生しなければならない。

 これまで、エドガー・ケイシーを始め、多くの賢人、偉人が魂の転生を唱えて来たが、なかでもユニークなのが、古代ギリシャの賢人、ソクラテスの転生論である。

 ソクラテスは、考えるという「手続き」を徹底的に掘り下げた人であるが、彼は、物事を理解するとは「想起する」ことであると語っている。

 どういうことかというと、人間には初めて出合う言葉を理解することは本来不可能であるはずなのに、それが理解できるのは、もともと知っていたからである、つまり、知っていたことを思い出すだけのことだというのである。それゆえ、彼は、理解することを‟想起する“と言った。

 これは、魂が転生することを前提としているから、ソクラテスが魂は転生することを固く信じていたことだけは疑いない。

 もともと「輪廻転生」という言葉は仏教から来たもので、キリスト教には「復活」という言葉はあっても「転生」という言葉はない。仏教徒の間ではダライ・ラマが転生するというのは周知の話だが、カソリック教徒やプロテスタントの間でキリストが転生するという話は聞いたことがない。キリストは復活した後、いまも天国で生きているからである。

 そのせいか、アメリカ人は「人生は1回キリなんだから楽しまなきゃ」という考えで、現世を徹底的に楽しもうとする。アメリカ人の二組に一組は離婚するが、これも、生きているあいだは楽しめるだけ楽しみたいという考えが底流にある。

 ひるがえって日本人の場合、人生は修行の場である、という考え方をする人が多い。それゆえ、多くの人は勤勉に働くし、アメリカに比べて離婚率も低い。結婚生活というのは、長く続けている人ならだれでも知っているように、忍耐が伴う。人生が修行の場であると考えない限り、好き好んで耐える人はいない。

 こうした考えは、仏教の影響が今も根強く残っているからで、その底には、人間は輪廻転生を繰り返していくという考え方が潜んでいる。

 肉体は朽ちても、魂はやがてこの世に戻って来て修行を重ね、それを繰り返すことによって少しずつ進化しながら目的地へと向かっていく。そこに何が待っているか、それはこの宇宙を創造した存在のみが知っているのかもしれない。

(たま出版編集長 中村利夫)

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