編集長日記
更新:2026年7月17日
「精神世界」とはどんな世界か
たま出版は精神世界の老舗出版社としてすでに60年近く営業を続けているが、ほとんどの人はたま出版の存在を知らない。
恥ずかしながら、私自身、半世紀近く出版業界で働いているが、この会社に入るまではその存在を知らなかった。たまたま関連会社に入社してその存在を知ったのである。関連会社に入社して3年ほど経ったとき、縁あってこの会社に転籍した。今から25年前のことである。
たま出版には昔から固定的なファンが少なからずいて、そういう人たちのおかげでこれまで営業を続けられて来た。100万部のベストセラーは出せないが、たとえば『転生の秘密』のように半世紀以上売れ続けている書籍もある。
では、たま出版が主に扱っている「精神世界」とはどんな分野なのか。改めて聞かれると、正確に答えるのは難しい。
一般には、人文書ではあるが、心理でもない、哲学でもない、宗教でもない、たとえば輪廻転生やカルマ、未来予知、透視、テレパシー、ヒーリング、フリーエネルギー、超古代といった書籍などが「精神世界」に属するとされているが、その本の“本籍”とも言うべき書籍コード(ISBNコード)の分類表には「精神世界」という項目は存在しない。これは、「精神世界」という言葉が生まれたのが1970年代で、書籍の分野としては比較的新しいためでもある。
このように、精神世界という分野は曖昧で範囲が広いため、一般の人たちに話すときには「スピリチュアル関連の書籍」と説明して、なんとなく納得してもらうわけだが、では、「スピリチュアル」とは何か、ということになる。
「スピリチュアル」という言葉は、周知のように「スピリチュアリズム(spiritualism)」という哲学用語から来ていて、日本語で言えば「精神主義」「唯心論」となる。これは、「マテリアリズム(materialism)」すなわち「物質主義」に対抗する言葉として位置づけられていて、意味としては、人間の本質を精神性(spirituality)に置く、つまり精神は身体から独立した存在であり、精神が‟主“で身体は‟従”であるという考え方を指す。
また、「スピリチュアリズム」は「心霊主義」とも訳されることがあり、これは、肉体が消滅しても霊魂は存在するという思想のことを言う。
こうやって見ると、スピリチュアリズムというのは、本来、日本人の気質ととても相性がいいということがわかる。いっとき、「お・も・て・な・し」という言葉が流行ったが、おもてなしの精神はおもいやりの精神であって、おもいやりは物より心を大切にするという日本人の特性の表われと言えるからである。加えて、自然界にあるものすべてに霊魂が宿るという古代からの神道思想は、スピリチュアルリズム以外の何物でもない。
たま出版を創業した故・瓜谷侑広氏は、戦後の物質主義から脱するためには心を大切にする文化を育てなければならないと考え、1969年、たま出版を立ち上げた。
残念ながら、世の中は逆のほうに動いてきており、たま出版も世間的には無名に近い状況が続いているが、だからといって、心を大切にすることの重要性がなくなったわけではない。地球温暖化ひとつとっても物質主義がもたらした結果に他ならないから、早くここから脱しなければこの文明は間違いなく滅びる。
人間はそれほど愚かでないから、いずれ物質主義の限界に目覚めて精神が‟主“となる時代が来るのであろうが、この老体にはその日を生きて過ごすことができそうにないのがちと心残りではある。
(たま出版編集長 中村利夫)